***月から降る星・・・***ルルはうさぎです。真っ白でふわふわの毛の女のコです。 ルルには、大好きなものがみっつあります。 ひとつめは、しろつめ草の朝露。 まだ少し空気が冷たい朝。 上がったばかりのオレンジ色の太陽にキラキラ光る朝露は、 まるで宝石のようです。 そっと舐めると、冷たくて甘くて、とても美味しいんです。 ふたつめは、真ん丸なお月様。 お母さんがよく話してくれました。 「月にはね、うさぎの天使が住んでいるの。 満月の夜は神様のお祭りでね、みんなでお餅を作ってお願いするのよ。」 「へぇ。どんなお願い?」 「みんなの夢が叶いますようにって。 ルルも一緒にお願いしてごらん!」 「うんっ!」 そんな訳で、ルルはお月様が大好きなんです。 そして三つ目は・・・ 「ルル、見て!これが龍だよ!」 「すごい!」 トムはビーバーです。 木でダムを作ったり、こうして木彫りの置物を作ったりすることが得意です。 トムの作る木彫りは、どれもまるで生きているようで、ルルはホントに驚いてしまいます。 「ルル、ボクの夢はね、世界一の木彫り師になることなんだ!」 「トムなら絶対なれるよ!」 「ルルだって歌があるだろ? ルルの歌、ホントにいいって思うよ!」 「ありがとう!」 「ルル、夢はね、追いかけ続けないと叶わないんだよ。 ね、あの歌を聴かせて!ボクの好きな歌!」 それは、ルルが作った歌でした。 トムの前で歌うのは何回目でしょう。 トムと出逢うずっと前に作った歌でしたが、何度も歌ううちに、それはまるでトムのために作った歌に思え、二人はとても幸せでした。 空に輝くうさぎの天使たちにも届いたのでしょう。 夜空はキラキラ、いつまでも二人を見守っていました。 その日もルルはトムに会いに、川にやって来ました。 「トム!」 振り返ったトムは少し目が赤く、まるで泣いていたようでした。 「トム、どうかしたの?」 「うん・・・。 ルル、ごめんね。 ・・・考えたんだけど、 この森を出ようと思うんだ。」 「え?」 「世界はこの森よりずっと大きくて、知らない木や生き物もまだまだいる。 ボクの木彫りは、この森と同じでちっぽけで・・・。 もっと大きな世界を見たくなったんだ。 そしたら、もっといろんな木に出逢える。 彫りやすい木。 彫りにくいけど、木目の綺麗な木。 ボクの夢は世界いちの木彫り師になることだから。」 ルルはうつむいたまま、何も言えませんでした。 トムと会えなくなる・・・ 悲しくない訳がありません。 でも、ルルには引き留めることも、泣き出すこともできませんでした。 トムのことが大好きだから。 トムを困らせることはしたくありませんでした。 「ルル、必ず帰って来るから。 この川に沿って旅に出るよ。ルルが手紙を流してくれたら、必ず受け取るから。 」 「うん。」 ルルは頷きました。 満月の夜、トムは旅に出ました。 水面にうつった月は、優しく揺れていました。 ルルはいつまでも見送っていました。 涙が一粒こぼれました。 その日から、ルルは毎日手紙を書きました。 ビンに入れて、そっと流しました。 「トム、元気ですか? ちゃんとゴハン食べてますか? 夢中になると、他のことを全部忘れちゃうトムのことだから心配です。 でもね、ホントは羨ましかったんだよ。 一生懸命木を彫ってるトムは、すごくカッコ良かったもん。 時々私のことも忘れちゃったよね。 でも、そんなとこも好きだった。 夢は追いかけ続けないと叶わないんだよって教えてくれたよね。 トムに負けないように、私も頑張ってる。 また会えた時、トムが悔しいって思うくらいカッコよくなるからね。 体に気をつけてがんばってね。」 会えない日々は、いつの間にかルルを強くしてくれました。 そばにいなくても、声が聞けなくても、同じ思いで頑張ってるトムが、この同じ月の下で夢を追いかけている。 それは何よりもルルを勇気づけてくれました。 一人じゃないって思いは、ルルの心をいつも暖めてくれたのです。 その日もルルは川へ行きました。 手紙を入れたビンを持って。 ところが・・・。 川の水はすっかりなくなっていました。 いったい何が起こったというのでしょう。 トムが旅に出たその川は、豊かに流れる水を全てなくしてしまっていました。 ルルの瞳から、涙がこぼれ落ちました。 あとからあとからこぼれ落ちました。 溢れる涙が川の水となり元に戻れば・・・。 でも、それは叶いませんでした。 満月がすっかり空のてっぺんに上がったころ、ルルはシロツメ草の丘に座りこんでいました。 雲一つない夜空に、満月はひときわ輝き・・・ 月明かりの下、シロツメ草はキラキラ揺れていました。 ルルは両手でしっかりビンを抱えたまま、満月を見上げました。 今夜もうさぎの天使たちは神様にお餅をお供えして、お願いをしているのでしょうか。 ルルはふとビンの中から手紙を取り出し、読み始めました。 トムに贈るつもりの言葉たちは、いつしか歌になっていました。 それは、優しく愛しさに溢れているのに、 あまりにも悲しい歌でした。 気が付くと、たくさんの動物たちが周りを囲んで、ルルの歌に 聞き入っていました。 みんな泣いていました。 みんなの瞳から、涙の粒が幾つもこぼれ落ちました。 するとそれは、月に向かってキラキラ輝く川になりました。 「優しい気持ちをありがとう・・・ 優しい涙をありがとう・・・ みんなの夢が叶いますように・・・。」 ルルは祈りを込めて歌いました。 ふと気付くと、満月から小さな舟がこぎ出されました。 舟には、うさぎの天使たちが乗っています。 天使たちは、キラキラ輝く星を降らせました。 幾つかは星座となり、また幾つかは甘いコンペイトウとなりました。 みんなとても幸せな気持ちになりました。 誰かを愛しく思う気持ちや、幸せを祈る気持ちは、どんな悲しみをも溶かしてしまう。 トムへの手紙は届かなくても、思いは届くんです。 お月様は、必ず伝えてくれるでしょう。 ルルが愛しさを忘れない限り。 ルルは歌い続けました。 トムの為、みんなの為、そしてルル自身の為に。 みんなが幸せになれますように・・・ ジャンル別一覧
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