167465 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ね、君が行きたいところへ行こうよ

ね、君が行きたいところへ行こうよ

***月から降る星・・・***

ルルはうさぎです。
真っ白でふわふわの毛の女のコです。

ルルには、大好きなものがみっつあります。

ひとつめは、しろつめ草の朝露。
まだ少し空気が冷たい朝。

上がったばかりのオレンジ色の太陽にキラキラ光る朝露は、
まるで宝石のようです。

そっと舐めると、冷たくて甘くて、とても美味しいんです。


ふたつめは、真ん丸なお月様。
お母さんがよく話してくれました。

「月にはね、うさぎの天使が住んでいるの。
満月の夜は神様のお祭りでね、みんなでお餅を作ってお願いするのよ。」

「へぇ。どんなお願い?」

「みんなの夢が叶いますようにって。
ルルも一緒にお願いしてごらん!」

「うんっ!」

そんな訳で、ルルはお月様が大好きなんです。


そして三つ目は・・・

「ルル、見て!これが龍だよ!」

「すごい!」

トムはビーバーです。
木でダムを作ったり、こうして木彫りの置物を作ったりすることが得意です。

トムの作る木彫りは、どれもまるで生きているようで、ルルはホントに驚いてしまいます。

「ルル、ボクの夢はね、世界一の木彫り師になることなんだ!」

「トムなら絶対なれるよ!」

「ルルだって歌があるだろ?
ルルの歌、ホントにいいって思うよ!」

「ありがとう!」

「ルル、夢はね、追いかけ続けないと叶わないんだよ。
ね、あの歌を聴かせて!ボクの好きな歌!」

それは、ルルが作った歌でした。

トムの前で歌うのは何回目でしょう。

トムと出逢うずっと前に作った歌でしたが、何度も歌ううちに、それはまるでトムのために作った歌に思え、二人はとても幸せでした。



空に輝くうさぎの天使たちにも届いたのでしょう。

夜空はキラキラ、いつまでも二人を見守っていました。




その日もルルはトムに会いに、川にやって来ました。

「トム!」

振り返ったトムは少し目が赤く、まるで泣いていたようでした。

「トム、どうかしたの?」

「うん・・・。
ルル、ごめんね。
・・・考えたんだけど、
この森を出ようと思うんだ。」

「え?」

「世界はこの森よりずっと大きくて、知らない木や生き物もまだまだいる。
ボクの木彫りは、この森と同じでちっぽけで・・・。

もっと大きな世界を見たくなったんだ。

そしたら、もっといろんな木に出逢える。

彫りやすい木。
彫りにくいけど、木目の綺麗な木。

ボクの夢は世界いちの木彫り師になることだから。」



ルルはうつむいたまま、何も言えませんでした。

トムと会えなくなる・・・
悲しくない訳がありません。

でも、ルルには引き留めることも、泣き出すこともできませんでした。



トムのことが大好きだから。





トムを困らせることはしたくありませんでした。








「ルル、必ず帰って来るから。

この川に沿って旅に出るよ。ルルが手紙を流してくれたら、必ず受け取るから。



「うん。」

ルルは頷きました。




満月の夜、トムは旅に出ました。

水面にうつった月は、優しく揺れていました。


ルルはいつまでも見送っていました。

涙が一粒こぼれました。





その日から、ルルは毎日手紙を書きました。
ビンに入れて、そっと流しました。







「トム、元気ですか?
ちゃんとゴハン食べてますか?

夢中になると、他のことを全部忘れちゃうトムのことだから心配です。

でもね、ホントは羨ましかったんだよ。
一生懸命木を彫ってるトムは、すごくカッコ良かったもん。

時々私のことも忘れちゃったよね。

でも、そんなとこも好きだった。


夢は追いかけ続けないと叶わないんだよって教えてくれたよね。

トムに負けないように、私も頑張ってる。


また会えた時、トムが悔しいって思うくらいカッコよくなるからね。


体に気をつけてがんばってね。」






会えない日々は、いつの間にかルルを強くしてくれました。

そばにいなくても、声が聞けなくても、同じ思いで頑張ってるトムが、この同じ月の下で夢を追いかけている。

それは何よりもルルを勇気づけてくれました。


一人じゃないって思いは、ルルの心をいつも暖めてくれたのです。






その日もルルは川へ行きました。
手紙を入れたビンを持って。

ところが・・・。





川の水はすっかりなくなっていました。

いったい何が起こったというのでしょう。



トムが旅に出たその川は、豊かに流れる水を全てなくしてしまっていました。





ルルの瞳から、涙がこぼれ落ちました。

あとからあとからこぼれ落ちました。



溢れる涙が川の水となり元に戻れば・・・。





でも、それは叶いませんでした。










満月がすっかり空のてっぺんに上がったころ、ルルはシロツメ草の丘に座りこんでいました。


雲一つない夜空に、満月はひときわ輝き・・・
月明かりの下、シロツメ草はキラキラ揺れていました。


ルルは両手でしっかりビンを抱えたまま、満月を見上げました。

今夜もうさぎの天使たちは神様にお餅をお供えして、お願いをしているのでしょうか。




ルルはふとビンの中から手紙を取り出し、読み始めました。

トムに贈るつもりの言葉たちは、いつしか歌になっていました。



それは、優しく愛しさに溢れているのに、
あまりにも悲しい歌でした。


気が付くと、たくさんの動物たちが周りを囲んで、ルルの歌に
聞き入っていました。




みんな泣いていました。

みんなの瞳から、涙の粒が幾つもこぼれ落ちました。
するとそれは、月に向かってキラキラ輝く川になりました。





「優しい気持ちをありがとう・・・

優しい涙をありがとう・・・

みんなの夢が叶いますように・・・。」





ルルは祈りを込めて歌いました。

ふと気付くと、満月から小さな舟がこぎ出されました。


舟には、うさぎの天使たちが乗っています。

天使たちは、キラキラ輝く星を降らせました。


幾つかは星座となり、また幾つかは甘いコンペイトウとなりました。

みんなとても幸せな気持ちになりました。






誰かを愛しく思う気持ちや、幸せを祈る気持ちは、どんな悲しみをも溶かしてしまう。

トムへの手紙は届かなくても、思いは届くんです。



お月様は、必ず伝えてくれるでしょう。

ルルが愛しさを忘れない限り。





ルルは歌い続けました。

トムの為、みんなの為、そしてルル自身の為に。




みんなが幸せになれますように・・・






© Rakuten Group, Inc.